Project Storyトルコと中南米の
粘着剤市場を開拓せよ。
機能材料本部
高機能エラストマーユニット
O.賢人(2012年入社)
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- トルコと中南米の粘着剤市場を開拓せよ。
未開拓の海外市場に商品を売り込む。これこそまさに商社の醍醐味だが、実際は地道に顧客のもとに足を運ぶことが仕事の大半だ。特に文化的背景が異なる地で、こちらの提案を受け入れてもらうためには、信頼関係の構築が必須。トルコや中南米の地で、テープなどの材料となるエラストマーの市場開拓を任されたO.賢人は、いかにして顧客の信頼を獲得していったのか、話を聞いた。
最初のターゲットに定めた、
トルコと中南米
- 担当するA社の製品を、これまで未開拓だった海外の市場に売り込む。端的に言えばそれが、約1年前からO.賢人が取り組んでいる最大のミッションである。
製品は、粘着剤や接着剤の材料として用いられるエラストマー(合成ゴム)および石油樹脂。A社のそれらの製品は、国内はもとより北米・欧州でもブランド力があり、安定した商売が続いていた。しかし、海外に新しく工場を建設して供給力を倍に増やす「攻め」の戦略へと舵を切ることになり、その増産分を売るための新規市場の開発をO.賢人は任されたのだった。
「本格的に顧客訪問を始めたのは去年の12月ですが、その前に3ヵ月ほど、三井物産の海外店の協力も得てマーケット調査を行いました。その結果、当面のターゲットに定めたのがトルコと中南米です」
トルコはヨーロッパと中東・アジアを結ぶ位置にある地の利に加え、国民の平均年齢が30歳以下と若く今後の経済成長が期待できる。中南米は価格を競争力にする中国や台湾の競合メーカーにとっても地理的に遠いため、彼らの営業の手が伸びにくいことが魅力だった。
既存顧客への対応を行いながら
地球の裏側で新規開拓
- O.賢人が現地の顧客訪問を開始したのは2013年12月。以来2〜3ヵ月に1回のペースで中南米やトルコを回っている。中南米はメキシコとブラジルが主な訪問地になるが、ブラジルであれば時差12時間、日本からの移動に30時間もかかる。決して楽な出張ではなさそうだ。
「確かに肉体的な大変さはありますが、時差ぼけを防ぐ方法も知ったし、それなりに慣れてきました。むしろ自分で道を切り拓いている手応えがあって、充実感の方が大きいです。どんな活動をするか、自分で計画して実行できる醍醐味もありますし」
しかし、既存の商売も動かしながらの遠方出張である。ひとたび出張に出れば、最低2週間は自分のデスクを不在にする。その間も顧客からのオーダーのとりまとめや船積みアレンジ、納期調整などのデスクワークはいつも通り続く。夜中の3時にサンパウロのホテルで、日本のメーカー担当者と連絡を取ることも珍しくないと話すO.賢人だが、表情は決して苦労だけを語るものではなかった。
ところで、相当な量に達する増産分の売り先開拓を担うプレッシャーは重くないのだろうか?
「どんどん売ってくれと言われる方が仕事はしやすいですね。むしろ、頑張ってせっかく引き合いを取って来たのに製品が出せないと言われる方がしんどいものです」
商社パーソンには、こういった胆力が必需品なのかもしれない。
北米・ヨーロッパで蓄積した知識を
新規開拓に活かす
- 新規市場の開拓こそ未経験だが、着手する前からO.賢人には一定の自信があったという。その背景にあったのは、それまで既存の商売を担当する中で、業界や取引先、商品などの知識を積み上げてきたことだった。北米・ヨーロッパの既存顧客への訪問、メーカーの技術者との勉強会などを通じて様々な知識を蓄積してきた。
「トルコや中南米の顧客訪問を始めて感じたのは、顧客の反応は大きくは違わないし、自分のやるべきことは大体同じということ。あと必要なのは、市場個別の事情を知り、それに合わせた対応を行っていくことです。粘着剤の代表的な用途にテープがありますが、ブラジルのテープの品質は日本や欧米で作られているものと何ら遜色はありません。ただ、そうした品質の製品をなぜ作ることができるのかを理解していないんです。問題もないし、変える必要もない、というのが基本的な姿勢でした」
献身的な技術サポートで
顧客の意識を変える
- 実際に訪れて知った中南米の市場は、想像以上に「モノポリーな市場」だった。原材料は輸入するが、生産したものは国内で消費する。これまでO.賢人が取り引きしてきた北米やヨーロッパの顧客のように製品を輸出することが殆どなく、グローバル競争にさらされていないため、現状を変える意識が働きにくいという実情があった。しかも商品開発部門を持つメーカーが少なく、材料を変えて品質や生産性の向上につなげようと提案してもなかなか動いてもらえない。実験や小規模な生産テストを行う施設がないため、試してみるといっても最初から実際の製造ラインを使う大仕事になってしまうのである。
「そうした状況の中で、我々の製品を使えばもっと良くなると納得してもらうには、技術的にしっかり説明し提案を行う、いわゆるテクニカルサービスが欠かせません。だからこそ既存の商売で知識を積み上げてきたことが、今、非常に活きています」
また、三井物産の海外店は重要なパートナーだが、彼らも三井物産プラスチックが扱う製品について深い知識があるわけではない。だからこそ30時間かけて直接出向く意味があり、現地店の担当者を育てることもやり甲斐の1つになっているという。
価格第一の顧客が
価格以上の「価値」を認めてくれた
- そして、トルコ。この地では、新市場の開拓を始めてから1年の間で最も手応えの大きな成果が生まれたという。
「相手は、価格第一で原料の調達先を選ぶメーカーでした。その時々の入札でゼロになることもあるし、最大でも我々からは全体量の半分しか仕入れてもらえない。そうした状況からスタートして、最終的には価格だけでない当社から購入する価値を認めていただき、我々の製品を100%使っていただくことに成功しました」
その認められた価値こそが、O.賢人のテクニカルサービスだった。顧客の姿勢は当初「価格の提示さえしてもらえばよい」といったドライなものだったが、O.賢人は何か情報が得られないかと食い下がった。2〜3ヵ月おきの海外出張では必ずその顧客を訪問し、面会を繰り返した。
多少気心が知れてくると、相手から価格に関すること以外の質問も出るようになり、O.賢人は蓄積した知識を活かしてその場で回答し、より細かい対応が必要なら次にメーカーの技術者を伴って訪問する。そうして最初は1時間足らずで終わっていたミーティングは2時間、3時間と伸び、最後は2泊3日にまでになった。信頼が深まり、それほどの時間を使っても足りないほど技術的なディスカッションが交わされるようになったのである。
今の課題は「人をいかに動かすか」
それこそがビジネス成功のカギ
- 「ネット社会がどれだけ発達しても、商売では直接会って話し信頼関係を築くことが大切です。ドライな契約社会と言われる欧米でも、人間関係で出来上がっている商売はたくさんあるし、顔の見えない人間と大切な取引はしませんよね。トルコの顧客とは、地道に訪問を続けて徐々に壁を薄くし、我々が提供する価値を理解してもらえたからこそ成し遂げた100%受注でした」
O.賢人が提供したテクニカルサービスは、担当するA社の製品に関するものだけに留まらない。顧客が胸襟を開くほど幅広い相談が寄せられるようになるが、様々な商品を扱う商社ならではの強みを活かして相談を解決していった。A社の製品を離れた悩み事に対しても「これを使ってみてはどうか」と提案してくれれば、いかに頼もしく感じるか。そうしてO.賢人はA社の製品という「点」から「面」での評価・信頼につなげ、ビジネスを成功に導いたのだった。
「今の課題は、人をいかに動かすか、ということですね。我々はメーカー、顧客、三井物産の海外店などの間に位置し、各関係者をいかにうまくコーディネートしてビジネスを円滑に進めるかが求められているわけです。色々な人を色々な形で動かす必要があり、誰にいつ、どのような情報を流して依頼をすれば全体がうまく動くのか、日々の仕事を通じて学んでいるところです」
O.賢人の挑戦は、今も日々続いている。