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pic素材を知る2024年8月30日

青果物流が変わる。鮮度保持フィルムで加工用ブロッコリーの安定供給に活路

北海道十勝の音更(おとふけ)町は、道内有数のブロッコリー産地です。ブロッコリーは年々消費量が伸びており、食卓に欠かせない野菜ですが、一方で生産に手間がかかるため、大規模化が難しいというのが課題になっています。そこで音更町農業協同組合(JAおとふけ)は、加工用のブロッコリーを安定的に供給すべく、産地化試験を開始。その試験で鮮度保持フィルム「エクステンド」を導入し、輸送を効率化させています。この記事では、JAおとふけの挑戦について担当者である山岸さんにお話を伺いました。

手間のかかるブロッコリーの大規模生産にチャレンジ

―音更町は道内有数のブロッコリー産地です。生食用のブロッコリーを生産する農家さんが多いなか、JAおとふけでは2021年から、加工業務用ブロッコリーの産地化試験を行っています。この試験を行うに至った背景を教えてください。

山岸:ブロッコリーという野菜は、暑さにデリケートなんですね。だから7~10月の暑い時期は、国内だと北海道と長野の高原野菜作地くらいしか出荷できません。つまり夏場は国産ブロッコリーが品薄になります。北海道はブロッコリーの一大産地ですので、この時期にもっと生産量を増やせればいいのですが、これがなかなか難しい。というのも、ブロッコリーは直径10~12cmのLサイズに到達したものから順に、ひとつひとつ手収穫しなければならないんです。これが大変手間がかかる。従来の方法では、生産量を増やすには労力が必要なんです。

一方で、冷凍ブロッコリーは、年間6~7万トンほど中国などから輸入されています。輸入品の販売価格はキロ単価300円ほどですが、夏場の国産生食用のブロッコリーは400~500円と、価格差があり加工用=輸入品となります。しかし、もし道内でも大規模生産できれば、輸入品の価格と同じくらいで再生産価格が確保でき、輸入品に置き換えることができるかもしれない。何より国内競争力がほぼ働かない、独占のような状態になるのではないかと考えました。

産地化試験では、収穫をJAおとふけが担っています。加工用だとサイズがバラバラでも問題ないので、一斉収穫ができ、課題だった手間を大幅に削減できるんです。生食用はLサイズを狙って何度も収穫に入るし、しかも寒さに触れるとアントシアニンという色素が発生して紫色になってしまうので、生食用では出荷できないのですが、加熱すれば緑に戻るので加工用では問題ないんです。このため廃棄ロスも減らすことができる。

それから出荷について、生食用は十勝管内の複数の農協が一カ所に一元集荷していますが、加工業務用はうち独自で行い、ユーザー直接納品を主とする事で生食用の流通へ影響させることなく出荷できるようにしました。ユーザーに直接納品することにより、国産なので鮮度でアドバンテージもあり、輸入品と同じくらいの価格で販売できれば勝負できると思いました。

―農協で収穫を行うというのは珍しいですよね。JAおとふけではよくある例なのでしょうか。

山岸:JAおとふけでは平成18年からにんじんの作業受委託方式による栽培を始めていて、これは種撒きと収穫を農協が委託した業者が行っています。生産者の手間を減らせますし、種撒きや収穫のための機械を購入する必要がないので、負担が少なく栽培できます。農業が大規模化するこのご時世では、生産者の手間を極力減らさないと、新しいことにはチャレンジできません。その環境をつくるのも農協の役割かなと思っています。しかし、にんじんは畑を選ぶ野菜なんです。石が多かったり粘土質だったりすると適さないので、480軒ある農家のなかで栽培できるのはだいたい半分くらい。だから二の矢として、あまり畑の環境を選ばずに作れるブロッコリーに目を付けたというわけです。

鮮度保持フィルムの導入で加工用として出荷可能に

―産地化試験で鮮度保持フィルム「エクステンド」を導入されたとのことですが、採用した理由を教えてください。

山岸:ブロッコリーを生食用として出荷するときは、発泡スチロールの箱に氷をパンパンに詰めて鮮度を保ちます。しかし加工用として出荷するには、発泡スチロールは好ましくないことが判明しました。加工工場内で発泡スチロールの欠片が発生すると異物と判断され、品質管理上の問題になるからです。そのため、加工用として出荷するにはどのような方法がよいのか考えました。箱は折り畳みのコンテナか段ボールケースに変更するとしても、氷が入れられないため鮮度を保つのが難しい。そこで、鮮度保持フィルムを導入すればよいのではと考えたのです。

導入するにあたり、エクステンドをはじめ複数のMA包材(鮮度保持フィルム)を用いて流通試験を行いました。それぞれの袋でブロッコリーを包装し、同じ条件で北海道から横浜まで運びます。そして到着したときの状態を細かく確認しました。結果としては、見た目、品質ともに最もよかったのがエクステンドでした。エクステンドの名前は以前から知っていて、品質が高いという評判は聞いていましたが、その通りの結果だったという感じです。

従来は氷の体積がかなりかさんでいましたが、エクステンドを使用することでそれを避けられるわけですから、その分ブロッコリーを運ぶ量を増やすことができます。氷がある場合は1箱にブロッコリー6kgしか詰められませんが、氷がないと約10㎏詰められるので、輸送効率が約1.7倍アップしたということです。エクステンド1枚に10kg分のブロッコリーが封入できるので、小分けにする手間などもありません。ユーザーである加工メーカーまでの輸送はコールドチェーンですから、1台のトラックに積載できるブロッコリーの量が増えれば、輸送コストも抑えることができます。ここ数年の輸送コストの高騰からすると、これはかなり大きいと思います。

【参考】出荷ケースの違いによるブロッコリー輸送量の比較

鮮度保持フィルム エクステンド

◎段ボール+エクステンドの場合、氷が必要ないため約1.7倍の量となる
◎1枚あたり最大10kg分のブロッコリーが封入でき輸送コストも抑えられる

鮮度保持で長期保管後、出荷時期をずらし安定供給をめざす

―輸送の課題はクリアしましたが、生産過程においてはどんな課題があったのでしょうか。

山岸:道外の方は北海道の夏は涼しいイメージがあるかと思いますが、実はこのあたりも夏は暑いんです。30℃から33℃ぐらいになる時期がある。今年で言うと7月下旬ごろ。ブロッコリーは暑さにデリケートで、これほど天候で収穫量や出荷時期がズレる作物はない。それを加工業務用として販売するとなると、安定供給というのが最大の課題になってきます。つまり出来高のブレが大きい夏場を、いろんな工夫をして乗り越えないとビジネスとしては成立しにくい。そのため、涼しい期間に収穫したものを長期保管して暑い時期に出荷出来ないかと考えています。

まだ気温の上がりきらない7月上中旬ぐらいに一斉に収穫して、枝葉を落とさないそのままの状態で冷蔵庫で長期保管して、それを収穫の少ない8月の出荷にあてるようなイメージ。9月になったらまた普通に収穫が再開できるので、そのような仕組みがいいだろうなと思っています。

それには、鮮度保持フィルムであるエクステンド、そこにプラスαで倉庫の環境づくりが重要になります。装備、機械など、それらをうまく組み合わせて、夏場に一ヶ月強の保管ができれば、私たちの目標は達成できると考えています。実際に2年後の出荷を目指して、関係機関の施設内でテスト中です。

栽培品目のバランスを保ち、健全な圃場を守る

―輸送と保管で流通をコントロールできれば、さらに大規模産地化への可能性が広がりますね。今後はどのような展望をお持ちでしょうか。

山岸:今回の産地化試験は、もちろん農家の収入を増やすことは大きな目的ですが、実はもうひとつ、健全な圃場を守るという目的もあります。というのも、農家からすると、収入を増やそうとすると機械化された品目、例えば小麦やマメ類といった大規模栽培しやすい品目に偏ってしまうんですね。北海道の畑作地域では、小麦、バレイショ、テンサイ、マメ類のいわゆる畑作4品を基幹作物とした大規模畑輪作が行われていますが、機械化された品目に偏ってしまうとそのバランスが崩れてしまい、これまでにない病気が発生するかもしれないんです。つまり4品目の輪作を維持することが、健全な圃場を守ることにつながるのです。そのため、手間が少なく、畑のバランスを崩さずにできることを、農家へと提案する必要がある。これは農協の重要な役割です。今回の加工業務用ブロッコリーの産地化試験を成功させることができれば、ブロッコリー生産に参入する農家が増えます。JAおとふけでは引き続き、農家の可能性を広げるためのサポートとして、さまざまなチャレンジをしていきたいですね。

エクステンドはAmazonで発売中!

PROFILE
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山岸 晃雄 さん
音更町農業協同組合(JAおとふけ)
販売部 青果課 課長

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